避難場所は、海方向?
巨大地震発生時、未知なるところへどう避難するか

鎌倉・旅する仕事場→妙本寺 参加者約15名

「避難場所のイメージがつかない」という不安

 朝、オフィスで働いている最中に関東南沖(南海トラフ)で巨大地震が発生! 午前10時には津波警報が発令!
というシチュエーションは、グループ2「オフィスからの避難①」と同じですが、避難場所は鶴岡八幡宮ではなく「妙本寺」というお寺です。
 妙本寺も鎌倉を代表するお寺のひとつではありますが、鎌倉観光のメッカというわけではなく、地元民でも鎌倉在住歴が長くない人などの中には「場所が良くわからない」「行ったことがない」という人も少なくないようです。
 今回ご協力をいただいた「鎌倉・旅する仕事場」で働く方々の中にも、妙本寺の場所を把握していない方が結構いらっしゃいました。「妙本寺という名前は知っているけれど、場所がわからないのでイメージもつかない」「道を知らないので、自分がどう動くか想像がつかない。他の人と一緒なのは心強いが、それで安全なのかはわからない」といった不安の声が数多くあがります。
 また、オフィスから妙本寺までは約700mで、鶴岡八幡宮までの距離とさほど変わらないのですが、逃げる方向としては真逆に近い形になります。地図だけで見ると、あたかも海の方向に向かうようにも思えます。「津波から逃げるのに、海へ向かって避難するのは怖い」「海から逃げてくる人たちとぶつかって、わけがわからなくならないだろうか」など、やはり不安と心配の声がたくさん聞かれました。

防災意識の輪を、日本中に広めていくために

 オフィスから妙本寺へは、たしかに、まずは海方向へ向かって進むことになります。ですが、途中で曲がりますし、妙本寺が建つ場所は標高約27mとされる高台なので、実際には心配無用です。しかしながら、場所や道を知らない参加者の方々が、心配になるお気持ちも良くわかります。やはり、あらかじめ避難場所と経路を確認・把握しておくことは重要なようです。
 避難体験がスタートすると、約15名の参加者の皆さんは、走って避難するグループと早歩きのグループとに自然と分かれました。早歩きのグループの中には「体力を温存したいと思った」との声がありましたが、なるほど、避難場所や経路を知っていても、自分の体力を自覚していなければ、最後までたどり着けない可能性も考えられます。避難場所と経路に加えて、自分の体力はどれほどのものかを理解しておくことも、防災の準備として欠かせないひとつといえそうです。
 折しも、この日は9月とは思えないほどの厳しい暑さ。スタートから約11分で、参加者全員が無事に妙本寺まで到着できましたが、皆さん、汗びっしょりで疲労の色を隠せない様子です。参加者からは「暑いし、距離感やイメージもわからないしで、すごくきつかった」「本当は歩いて10分もかからない距離なのに、とても遠く感じた。心身ともに辛かった」といった声があがりました。
 また、比較的体力があり、走って避難した参加者からは「後ろにいる人たちを助けに引き返すべきか迷った。東日本大震災のときも、助けに行って津波にのまれた方がいたので、葛藤があった」「我先にと、自分優先で逃げてしまった。後ろの人たちを誘導するべきだったと反省もしたが、実際の避難時にもそれをできるだろうか、と考えるきっかけになった」という感想が多く聞かれました。さらには、「そういった、体力のある若者たちが中心となって防災対策を進めると良いのでは」といった意見もありました。
 会社の同僚は、ほぼ毎日顔を合わせる身近な存在です。参加者の方も「身近な同僚と一緒に、こういう訓練に参加するなどして、避難場所や経路を把握しておく輪を広げていきたいと思う」と口々におっしゃっていましたが、まさにそのとおりで、防災に大切なのは、その”意識の輪”を広げていくことです。会社単位で防災意識を広めていければ、鎌倉中、日本中にも、その輪はどんどんと広がっていくはずです。