足が不自由な同僚も働くオフィス。
巨大地震発生時、どう避難する?どう避難させる?

鎌倉・旅する仕事場→鶴岡八幡宮 参加者約15名

車椅子と、その使用者。どちらを優先的に避難させるべきか

 午前9時55分。鎌倉のとあるオフィス。社員の皆さんは、はつらつと仕事に打ち込んでいます。その中には、足が不自由なため車椅子を使用している社員もいます。そこに、巨大地震が発生!
 というシチュエーションです。協力してくれたのは、鎌倉のシェアオフィス「鎌倉・旅する仕事場」の皆さんです。土曜日にも関わらず、約15名の方々が参加してくださりました。
 避難体験の開始前に、参加者の皆さんに今の心境を聞いてみました。「ハザードマップは時々見ているけれど、実際に避難訓練に参加したことはないので、とても貴重な機会だと思う」「自宅の目の前は海なので、すごく関心がある」といった声がある中、やはり皆さんが最も心配されているのは、車椅子の方への対応です。「自分だけが逃げればいいわけではないので緊張している。頑張りたい」「車椅子の方といっしょに逃げることは考えたこともなかったので、良い機会だと思う」「車椅子の方の対応をしっかりやらなければと思うが、無理はせず、周囲を頼りたい」と、皆さん、それぞれに考えをお持ちの様子でした。
 そして、実際に車椅子を使用する方も交えて、「どのように避難するべきか」を参加者の皆さんで話し合っていました。それによると、逃げ道の階段の上り下りの際に、車椅子を運ぶ係と、その使用者の避難をサポートする係に分かれる割り振りを構想しているようです。
 事前の説明と話し合いが終わり、いよいよ避難体験スタート。避難場所は、オフィスから約650mの場所にある鶴岡八幡宮です。
 オフィスは2階にあるため、さっそく車椅子の方をサポート。男性参加者2名で使用者の足元と胸部を抱きかかえて先に階段を下り、その後を、女性参加者2名で車椅子を持って下りていきます。しかし、この順番が少々問題で、先に使用者が下りてしまったため、車椅子の到着を待つことになってしまい、その間使用者を抱え続けなくてはならない男性参加者2名は苦しそうな表情を浮かべていました。車椅子と使用者を分けて移動する場合、車椅子を優先にした方が良いようです。

一日の大半を過ごすオフィス。地震の遭遇率も高い

 オフィスの外に出てから、避難場所の鶴岡八幡宮までの道のりは一直線です。車椅子の方が先頭になる形で、ジョギングのようなペースで避難をしていきます。車椅子を押す係を務める参加者の方は、段差や斜めの場所などを通る度、使用者の方に「痛くないですか?」といった声がけを行っていました。こうした声がけは、車椅子を使用する側にとっても押す側にとっても不安の軽減に役立ちそうです。
 鶴岡八幡宮の敷地内は砂利道なので、車椅子は石畳の道に移動して進みました。ですが、車椅子の使用者からは「辛い」と声があがり、以降は、使用者の希望により砂利道を進むことにしました。
 避難場所のゴールに設定した本宮までの階段(大石段)前まで到着し、参加者の皆さんは、車椅子の方と一緒に進む道として、中央の大石段を上がるか、大石段よりはやや緩やかな奥側の階段まで遠回りをして上がるか、の二択を迫られることになりました。そして、少しでも早く津波から逃れるべく、中央の大石段を上る道を選択しました。
 車椅子は女性参加者4名で持ち、使用者は男性参加者2名で抱えて大石段を上がります。オフィスを出る際の反省を活かし、ここでは、車椅子班が先に上り、使用者を待つ形を取りました。61段ある大石段ですが、車椅子班・使用者班とも、休憩を取ることなく一気に上り切りました。
 標高約37mの鶴岡八幡宮本宮まで、参加者全員の避難が完了するのに要した時間は約11分。大人の足で歩いて約8分の距離なので、車椅子の方も一緒だったことを考えると、スムーズに避難できたといえそうです。しかし、参加者の中からは「もっと速く走っていると思った。11分もかかったとは」と驚きの声もあがりました。また、「車椅子の方は”置いていかれる恐怖”があると思う。周囲は、最後まで責任を持ってサポートをしなくてはならないと思った」「普段はなんてことのない道でも、車椅子を押していると思うように進めず怖かった」「実際の避難時は人がごった返すはずなので、車椅子の方がスムーズに避難できるよう担架を用意しておいた方が良いのでは」といった、車椅子の方の避難を案じる声も多く聞かれました。避難体験後に、使用者が乗ったままで車椅子を持ち上げたところ、思ったよりも軽く、もしかしたら避難時もそのまま持ち上げて移動した方が良いのでは、といった気づきもあったようです。
 車椅子の使用者の方からは「気を遣ってくださり、何度も声がけをしてくださって安心できたが、いざという時は遠慮なく、どんどん押していってくださった方が良いかもしれない」という感想がありました。
 避難体験終了後も、今回の感想や意見を元に熱心にブレストを行っていた参加者の皆さん。「車椅子を使用している同僚がいなくても、避難している人の中に車椅子の方がいることも考えて、担架はオフィスに用意しておいても良いかも」といった声もあがるなど、皆さん、”一日の大半を過ごす場所であり、地震に遭遇する可能性も高いオフィスから避難するということ”を真剣に考えるきっかけとなったようです。